無痛分娩のリスクや死亡する確率は?事故を回避するための注意点は?

出産

日本産婦人科医会の調査によると、日本における無痛分娩は

平成26年度で2万7719件、28年度には3万6849件、

2年間で約9千件増加しました。

28年度では全体の6.1%が無痛分娩を占めます。

 

無痛分娩は母体への負担が軽くなることや

産後の回復が早いということから

高齢出産では特に無痛分娩を選ぶことが増えていますが、

無痛分娩での事故が多いのが心配ですね。

無痛分娩のリスクについて、信頼できる専門家の意見をもとに、

麻酔陣痛促進剤の2点から考えてみましょう。

また、リスクを避ける対策について、妊婦とその家族にもできることを考えましょう。

無痛分娩による死亡率やリスクの確率

「無痛分娩の実態把握及び安全管理体制の構築についての研究」班の

三重大学池田智明教授によると、

2010年~2016年の7年間で妊産婦死亡例が271例あったということで、

そのうち無痛分娩によるものは14例(5.2%)だったそうです。

14例のうち、麻酔関連死が1例

それ以外の13例には陣痛促進剤の関与が否定できないとのことです。

 

陣痛促進剤の用法・用量が基準を超えていたり、

分娩監視装置での監視がきちんとされていないなど、

無痛分娩での陣痛促進剤によるリスクの確率は71%になります。

無痛分娩事故の陣痛促進剤の関与に関する質問主意書

 

無痛分娩というと、痛みを弱くするイメージから、

麻酔での死亡事故が主となるのかと想像していましたが、

麻酔だけでなく、陣痛促進剤の関与という点も見逃せないことがわかります。

まず、無痛分娩での麻酔から考えていきましょう。

 

無痛分娩では硬膜外鎮痛という方法が一般的です

新聞などでよく聞く無痛分娩の事故は、

分娩中の 麻酔 と 陣痛促進剤 を使う際に起きていることが多いです。

どちらも医師の十分な観察のもとに行われば安全ですが、

設備不足、スタッフ不足、スキル不足で安全が確立されていない産院で、

事故の多くは起こっているのです。

事故を防ぐために大切なことについて、

医療事故問題に詳しい弁護士の谷直樹氏と

日本産婦人科医会 常務理事 の 鈴木俊治氏の意見をまとめましたので、

まず、無痛分娩での麻酔、 硬膜外鎮痛 の方法について見ていきましょう。

 

硬膜外鎮痛とは?

海外でも日本でも、無痛分娩は 硬膜外鎮痛法 という

下半身の痛みだけをとる方法が行われています。

無痛分娩以外にも、手術や術後の痛み止めのためにも使われる方法です。

 

無痛分娩では、陣痛が始まると背中から細く柔らかい(直径1mmほど)を

背骨のところにある 硬膜外腔 に入れ、管から薬を注入して痛みを和らげます。

(産院によってこの硬膜外鎮痛開始のタイミングは変わってきます。)

脊髄くも膜下硬膜外併用鎮痛 を行う場合は、

硬膜外腔に管を入れる前に、脊髄くも膜下腔に針で薬を投与します。

 

お産の痛みを伝える神経の近くに投与するので、強い鎮痛効果があります。

これらの処置は、ベッドに横向きに寝るか、座って背中を丸めた姿勢で行います。

最初に細い針で皮膚に痛み止めをするので、痛みはありません。

10分程度の処置で終わり、柔らかい管だけが体に残り、

背中を下にして横になっても大丈夫です。

 

硬膜外無痛分娩を受けると、陣痛中の酸素消費量が少なくてすむので、

心臓や肺の具合が悪い妊婦さんは負担軽減のために

硬膜外無痛分娩を勧められることがあります。

 

硬膜外鎮痛で大きな事故につながるリスクは?

背中側から見て、 硬膜外腔 より奥に 脊髄くも膜下腔 があります。

硬膜外鎮痛で細いを入れるのは、 硬膜外腔 ですが、

管を入れるときや分娩の経過中に、その細い

脊髄くも膜下腔 に入ってしまうことがまれにあるのです。

 

硬膜外腔に投与するはずの麻酔薬が、脊髄くも膜下腔に入ってしまうと、

麻酔の効果が強く早すぎて、血圧降下、呼吸困難、

意識を失うなどの合併症が起きてしまいます。

このとき、麻酔医が監視していて異変に気づき、

麻酔薬の注入を止めれば全身脊髄麻酔にならず、事故は防げるのです。

 

無痛分娩の事故は、この監視を怠った結果、発生していると、

医療事故問題に詳しい弁護士の谷直樹氏は指摘しています。

2017年07月25日(火)エキサイトニュース

このURLの記事はみつかりませんでした - エキサイトニュース

 

日本産婦人科医会 常務理事 の鈴木俊治氏も、このようなケースで

呼吸ができなくなっているときに、人工的に酸素を与えていけば

次第に麻酔は覚めていくので助かる可能性があると言われます。

2017年07月30日 J-CASTニュース

無痛分娩「失敗」で死亡事故 「危ない出産法」の誤解危惧する声
出産時に麻酔を注入して痛みを抑える無痛分娩。恩恵を受ける妊婦が増えている半面、悲しい死亡事故も起きた。フランスでは、全分娩の8割に達するほど定着しているが、日本ではまだ少数派。それだけに「危険なのでは」との誤解が広まる恐れがある。適切な処置...

 

常勤医師が最低でも4人いる病院を選びましょう

無痛分娩で妊婦さんが亡くなった悲しい事故のひとつを見てみると、

管が脊髄くも膜下腔に達していたにもかかわらず、

医師も看護師もそれを疑うことなく本番の麻酔を投入し、

その後、医師は再び外来へ戻ってしまい、直後に妊婦さんの容態が急変してしまったのでした。

医師も看護師もみんなが異変を見逃したうえに、

急変したときの連携も遅かったとのことです。

 

無痛分娩は麻酔を扱いますから、産婦人科医の他に

麻酔科医が24時間体制で状態を管理し、

小児科医(新生児科)も常駐しているといった体制が理想的です。

そのような体制でこそ、緊急事態にも迅速で適切な対応ができるのです。

 

 

(日本の無痛分娩は、24時間麻酔科医が常勤することがむずかしいため、

陣痛促進剤による計画分娩でお産を日中に誘導して行うのがほとんどです。

記事後半で計画分娩と陣痛促進剤についてお話します。)

 

小さな産院で無痛分娩をやっている場合、

麻酔も分娩も、院長の産婦人科医がひとりで行うというケースが多く、

緊急時の危険性が極めて高くなるのです。

 

産婦人科医の宋美玄(そん・みひょん)先生も、

「常勤医が最低でも4人いたほうがいい、

ひとりすごい医師がいるところよりは、層が厚い病院を選んだほうがいい」

と言われています。

「小さい産院で安全性が確保されていないところでの

無痛分娩はおすすめしない」とも言われます。

  • 常勤医が何人いるか
  • どんな専門医がいるか

これを病院のホームページで調べるとある程度はわかります。

厚生労働省のHPには無痛分娩取扱施設の一覧があります。

厚生省

無痛分娩の麻酔「硬膜外鎮痛」でのリスクを避けるためには、

産婦人科医・麻酔科医・小児科医など

最低4人はいる、層が厚い病院を選びましょう。

 

日本の無痛分娩と陣痛促進剤の使用

日本では無痛分娩をするなら計画分娩(誘発分娩)になるのがほとんどです。

陣痛促進剤としての子宮収縮薬を使って、

平日の昼間にお産を誘導する計画分娩です。

日本の無痛分娩は、自然分娩とは違った分娩経過をとることになります。

 

日本の無痛分娩と海外の無痛分娩の違い

アメリカなど海外の無痛分娩

自然に陣痛がきたときに対応できる24時間体制の無痛分娩体制が整っていて、

無痛分娩だけのために計画分娩(誘発分娩)になることはないそうです。

海外の病院では集約化が進んでいて、一施設あたりの分娩数が多いので、

24時間いつでも緊急帝王切開と無痛分娩に対応できるように

産科麻酔専門の麻酔科医が院内に待機することが可能なのです。

 

集約化の進んでいない日本の分娩数の少ない病院で、

無痛分娩のためだけに24時間体制で

産科専門の麻酔科医が待機していることはむずかしいのです。

計画分娩ではない24時間365時間対応の無痛分娩を

行っている病院

順天堂大学医学部付属順天堂医院、聖路加国際病院、

愛育病院、国立成育医療研究センター、

など、日本では全国的にも数えるほどしかありません。

 

陣痛促進剤が使われる無痛分娩

このように日本の無痛分娩は、ほとんど計画分娩で、

通常の自然分娩のように陣痛がくるのを自然に待つことはありません。

まず、昼間にお産を誘導するために陣痛促進剤としての子宮収縮薬が使われます。

そして分娩が始まったあとも、硬膜外鎮痛法で麻酔薬が投与されると陣痛が弱まるので、

さらに陣痛促進剤が追加されます。

すると痛みが出るので麻酔薬を追加

すると陣痛が弱まるので陣痛促進剤追加

また痛みが出るので麻酔薬を追加・・・

 

無痛分娩は、麻酔のために本来の陣痛を感じ取りにくくなります。

ですから、陣痛促進剤の追加による強すぎる子宮収縮から

かんたんに子宮破裂など最悪の事態に陥る危険性があることがわかります。

 

このように、無痛分娩は、麻酔以外にも

陣痛促進剤によるコントロールなど、助産師さんでは手助けできない

医療の要素と高度な技術が必要です。

 

無痛分娩は、昔からの多くの小さな産院のような

産科医ひとりと助産師さんで分娩を行う体制では、もはや対応困難なのです。

 

無痛分娩は、麻酔だけでなく陣痛促進剤による計画分娩の点から見ても、

常勤医ひとりの小さな産院を選ぶことは避けたいものです。

大きな病院でも体制をよく調べることが必要です。

 

陣痛促進剤のリスク

公益財団法人 日本医療機能評価機構 の 産科医療補償制度 の報告によると、

陣痛促進剤の使用に際し妊婦さんの同意がないままに使ったケースや、

陣痛促進剤使用中に必要な監視をきちんと行っていないケースが非常に多いです。

子宮収縮薬を使用した事例のうち、用法・用量が基準内であり、

かつ分娩監視装置による連続的な胎児心拍数聴取が行われた事例は五十件、

わずか二十九%であったと報告されている。

無痛分娩事故の陣痛促進剤の関与に関する質問主意書 より

陣痛促進剤として子宮収縮薬の点滴を投与しているときは、

強すぎる陣痛によって赤ちゃんの酸素が足りなくなったり、

子宮破裂することがあるので、

赤ちゃんの心拍数 と 子宮収縮の状態

注意深く 監視 しなければなりません。

子宮の出口を柔らかくするお薬を飲むこともありますが、

これも子宮収縮薬で、やはり赤ちゃんの心拍数の 監視 が必要です。

陣痛促進剤で事故が多発している?!

公益財団法人 日本医療機能評価機構 の 産科医療補償制度 は、

出産の事故で重度の脳性まひになった子供に補償金を支払う制度です。

というのも、妊婦さんが知らない間に陣痛促進剤として子宮収縮薬が使われて

赤ちゃんが重度の脳性まひになったケースが多くあるのです。

「陣痛促進剤による被害を考える会」も設立されています。

陣痛促進剤による被害を考える会

 

無痛分娩ではない通常の自然分娩でも油断できません。

妊婦さん全員に自然分娩を大切にすると言いながら、

全員に知らない間に陣痛促進剤を使っていて事故が多発したというケースもありました。

 

陣痛促進剤は多くの出産で使われていますが、

医師がきちんと 使用量 や赤ちゃんと妊婦さんの 監視 

ガイドラインに沿って守っているなら、

重度の脳性まひになっている事例はほとんどないのです。

陣痛促進剤のリスクを避け安全なお産をするためには?

公益財団法人 日本医療機能評価機構 の 産科医療補償制度

のホームページのトップページから

資料・報告書「再発防止に関する報告書・提言」をクリックし、

「再発防止委員会からの提言集、リーフレット・ポスター」 から

「分娩誘発・促進(子宮収縮薬使用)についての

ご本人とご家族への説明書・同意書(例)」

を印刷して病院に持っていきましょう。

産科医療補償制度

そして、医師に「子宮収縮薬を使う場合は、必ずこの文書に沿って

インフォームド・コンセントをやってください」と伝えましょう。

インフォームドコンセントとは、投薬治療・手術など医療行為を受ける患者が

その内容についてよく説明を受けて十分に理解した上で、

自由意志に基づいて医療従事者と合意することです。

 

厚生労働省と無痛分娩

無痛分娩の事故が多発し、

安全性に対する懸念が社会的に注目されるようになりました。

無痛分娩に関する提言と通知及びJALA

厚生労働省研究班は、2018年3月29日に

「無痛分娩の安全な提供体制の構築に関する提言」を発表しました。

2018年4月20日には厚生労働省医政局から、

「無痛分娩の安全な提供体制の構築について」が通知されました。さらに、

2019年3月15日、無痛分娩関係学会・団体連絡協議会(JALA)が発足されました。

 

しかし、これらに法的拘束力はありません。

無痛分娩による事故で娘さんを亡くした安藤雄志さんは、

義務化しなければ再発防止策とはいえないので、

法改正を含めた抜本的対策を求めて、同じ思いを持つ人たちと

ともに行動しようと、2019年、無痛分娩の被害者の会を立ち上げることを決めました。

無痛分娩そのものが危険なのではなく、

技量がない医師が何の備えもなく手術をしていることが問題だと

安藤さんは語られています。

 

無痛分娩のリスクを避けるには複数の医師がいる病院をえらびしょう

24時間365日無痛分娩に対応している

順天堂大学医学部付属順天堂医院、聖路加国際病院、

愛育病院、国立成育医療研究センター、

などで出産できるなら、

無痛分娩でも通常の自然分娩でも、手厚い配慮の中で

安心して出産できると思いますが、

現実はそのような病院は全国的に数少ないです。

24時間対応ではなく 計画分娩 であっても、

  • 陣痛促進剤の使用量も母児の監視もガイドラインに準じ、
  • 医療体制も麻酔科医・産婦人科医・助産看護スタッフのチーム医療で行い、
  • 常勤医もたくさんいる、

名古屋市立大学病院のような病院もあります。

 

他にも病院のホームページを調べてみれば

計画分娩であっても、安全な体制を整えた病院が見つかるでしょう。

 

日本での無痛分娩による事故で娘と孫が寝たきりになってしまった

ロシア人の医師ボイコ・リュボビ先生は、

厚生労働省研究班の提言案は、医師がひとりしかいない診療所でも

無痛分娩を行える内容であることを心配しています。

大きな病院に妊婦さんが集中するのをおそれてのこととは理解できるが

だからこそ、無痛分娩が多い都道府県がどこかなどの統計をとって

無痛分娩が多い地域に必要な人員と機器を完備したセンター病院を

整備することもひとつの方法だと言っています。

そして、「出産は複数の医者がいる体制のところでしてください」

と警告しています。

欧米では、小さな診療所のような病院では検診や術後のケアを担当し、

出産時は医師も一緒に大きな病院に行って分娩を行うオープンシステムが

一般的なのだといいます。

 

麻酔・陣痛促進剤などでリスクが考えられる無痛分娩では、

常勤医師がひとりの小さな産院で出産することは安全とは言えませんね。

無痛分娩のリスクを避けるには、宋美玄先生やボイコ・リュボビ先生が言われるとおり、

「出産は複数の医者がいる体制のところでする」ということが大事です。

 

産婦人科 医で三鷹レディースクリニック院長の

天神尚子 先生 は、無痛分娩のデメリットとして

吸引分娩や鉗子分娩という器械を使ってのお産になりやすく、

会陰切開や会陰裂傷の傷が大きくなったり

出血が多くなったりする恐れがあることをあげています。

無痛分娩を選択するとしても、

妊娠中に、伸びやすい会陰のために会陰マッサージは続けましょう。

会陰切開に関する詳しい記事はこちらからどうぞ。

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